Café Apéro をつくることになった物件は、内階段でつながる一階と二階、ふたつのフロアだった。
カフェのない街に、カフェをつくる。それだけでも挑戦なのに、この広さをすべて埋められるだろうか。正直に言えば、不安があった。だから考えた。二階には二階で、別の店をつくれないだろうか。
ちょうどその頃、GRAPES には、ひとりの料理人がいた。篠彰喜である。
コロナ禍のさなか、篠は銀座の店でシェフを務めていた。その店が閉じることになり、知人の紹介で GRAPES にやってきて、ほかの店舗の厨房に立ってくれていた。けれど、その経歴を見ても、積み上げてきた仕事を見ても、篠は自分の店を持つべき人だった。
二階の空いた場所と、店を持つべき料理人。ふたつが重なり、ここに篠の店をつくることになった。
篠は、和食をひととおり経験してきた料理人だ。けれど、なんでもできるからこそ、彼ならではの強みが見えにくいところもあった。
そこで軸に据えたのが、天ぷらだった。山の上ホテルをはじめ、長く揚げ物と向き合ってきた篠の経験。それを、GRAPES の象徴でもあるワインと掛け合わせる。天ぷらとワイン。そこから、新しい店のかたちが見えてきた。
篠は、とても真面目な男だ。飲食ひと筋に生きてきた。どこか侍のような、昔気質なところもある。けれど、その芯には優しさがある。
一方で、カウンター越しにお客様とずっと話し続けるのは、得意ではない。
だから、しのの揚げ場は、カウンターの後ろにある。天ぷら屋のカウンターとしては、珍しいつくりだ。見た目の華やかさでいえば、いまひとつかもしれない。けれどそれは、自分が主役になるのではなく、裏方として振る舞うことを大切にしてきた、篠の哲学そのものだ。
いわゆる高級店での経験が、豊富にあったわけではない。それでも篠は、人に恵まれた。社内にも社外にも、彼を支えるアドバイザーたちがいる。その人たちとともに、篠は日々、自分の料理を磨き続けている。しのの天ぷらは、ゆっくりと、少しずつ、おいしくなっている。
白く仕立てた衣には、黄身の白い卵を。油は、太白胡麻油をもとにしたオリジナルのブレンド。添えるのは、昆布と干し椎茸を合わせた自家製の塩。ワインはシャンパーニュとブルゴーニュを中心に、好きなものを、好きなだけ。揚げたてのひと口と、グラスの一杯を行き来する。
篠は、言葉数の少ない男だ。けれど、スタッフにも恵まれた。その天ぷらは、研ぎ澄まされた鋭さで驚かせるものではない。機嫌がよくて、温かい。篠の心をそのまま映したような、やさしいおいしさがある。
少しずつ進化していく、しの。その歩みを、どうか見守ってほしい。
Team( 店をつくる人 )

料理長
篠 彰喜
Akihisa Shino
1975年、東京生まれ。「山の上ホテル」「東京ベイコートクラブ」、銀座の日本料理店で長く和食に携わり、なかでも揚げ物を得意とする。

マネージャー兼ソムリエ
栗林 建太

キッチン
樋口 太一
Information( 店舗情報 )
- 住所
- 〒106-0031
東京都港区西麻布4-2-15 水野ビル2F - アクセス
- 広尾駅から徒歩8分
六本木駅から徒歩10分 - 電話
- 03-6689-8733
- 営業時間
- 18:00〜23:00(L.O. 21:00)
- 定休日
- 日曜日(ほか不定休あり)
- 席数
- 10席(カウンター6席、個室4席)
- 開業
- 2023年1月












